「敬語の指針」に載った使い方は以下のようである。「「…(さ)せていただく」といった敬語の形式は、 基本的には、自分側が行うことを、ア)相手側
「敬語の指針」に載った使い方は以下のようである。「「…(さ)せていただく」といった敬語の形式は、 基本的には、自分側が行うことを、ア)相手側又は第三者の許可を受けて行い、イ)そのことで恩恵 を受けるという事実や気持ちのある場合に使われる。したがって、ア )、イ)の条件をどの程度満 たすかによって、「発表させていただく」など 「…(さ)せていただく」を用いた表現には、適切な場合 と、余り適切だとは言えない場合とがある」(日本文化庁 2007:40)。それに対して、李(2016)は国 会会議録検索システムを利用し集めたデータを分析した結果、「させていただく」が実際に使われる際 に、「敬語の指針」で決められた使い方以外、自分を低めた丁重語として使われ、また、「自己主張」 の意味でも使われるほか、場合によって「攻撃性」が感じられる使い方があるということを指摘した。
「させていただく」に関してアンケート調査で自然度と判断要因の分析、使用実態の研究、動作の許 可者に関する考察など多くの研究がされているが、外国人学習者の使用実態に関する研究はまだ少な いようである。
このように形と意味も複雑な敬語を、中国人日本語学習者がその意味をどう理解しているのか、正 確に使えるのか、それに、日本語母語話者の「させていただく」の使用に違和感があるところに中国人 の日本語学習者が同じく違和感を感じるのかといった習得の状況を調査することは、誤用を避け、正 しい使い方を身に付けることに対して有意義であると思われる。そこで、本稿では「させていただく」 に関する先行研究をまとめ、それに基づいて中国人日本語学習者に「させていただく」の使い方のアン ケート調査を行い、その使用実態を分析することを通じて、中国人日本語学習者の「させていただく」 の習得状況を明らかにしたい。
2. 先行研究
李(2016)は国会会議録検索システムを使い、「させていただく」の使用実態を調査したところ、そ の本来の使い方以外、丁重表現で自分を低める場合に使われることが多く、質疑応答の定型句になっ たことも多く、また、「自己主張性」の使い方も現れたと指摘した。また、塩田(2016)は調査を経て、 心理的負担、迷惑、不利益なことを相手に与えると思われる場合に多く用いられると述べた。
伊藤(2011)では、高校生を対象に「させていただく」を使った文の自然度と敬意などを判断させた 結果を因子分析で分析した結果、拡大用法の自然度の判断は上下の場、そして商業場面の定型句につ ながり、一方、文法本来の意味、使役の許可者そして他者との関係が本来の用法を維持していること が分かった。また、宇都宮(2006)は新聞コーパスを使い、「させていただく」が使われた文の許可者 を分析した。公の場合では、「させていただく」文型を使った文の許可者が相手である場合、主に丁寧 さを表現する。その対象が聞き手ではなく、第三者であれば回りくどさと慇懃無礼さという違和感が 感じられるが、その第三者は一定の社会地位のある人、又はある組織であれば、違和感が緩和される と思われる。また、「させていただく」を使うことで、自分が恩恵を与える意味を緩和する傾向もうか がえる。さらに、許可者が不明の場合、「謙虚さ」または「自分を高くしない」というようにとらえられ る。渠(2012)は新聞の中で使われた「させていただく」を集め、その使い方を語用論とポライトネス から分析し、「させていただく」の使い方の広がりの必要性を説明した。